熟練者の技術伝承~鉋削り職人の技を数値解析~
熟練者の技術伝承~鉋削り職人の技を数値解析~
- 2025-11-21
- 人の計測/解析
- OptiTrack
- 剛体
熊本大学 工学部 創造工学研究室 大渕慶史様
熊本大学 工学部 創造工学研究室 大渕慶史様
基本情報
伝統技能の分野では、長年にわたって受け継がれてきた伝統産業の技が教える側の高齢化、さらには少子化による後継者不足などの問題により、これまでのような師弟関係による次世代の技術者育成が困難となっております。
そのため、熟練者の優れた動作を客観的なデータとして保存し、測定・評価することが必要になってきております。
今回は熊本大学 工学部の大渕先生に、伝統技能の技術伝承という課題に対し、OptiTrackを用いてどのように職人の「技」を数値解析されているかお話を伺いました。
- 伝統技能を持つ熟練者の「技」や「暗黙知」を、客観的な数値データとして高精度に記録・分析するため
- 従来のビデオ撮影や簡易的モーションキャプチャによる精度の低さや工数の多さを解決するため
- 高精度なデータが低コストかつ簡単なセットアップで取得可能に
熟練者の「技」や「暗黙知」が、客観的な数値データとして明確化
- 技能習得へのフィードバック効果の確認
導入の経緯
船大工の職人技を効率良く数値解析したかった
― どのような経緯でモーションキャプチャーの導入に至ったのでしょうか?
20年前、山口県にある博物館が、伝馬船を作るある船大工さんが引退されるということで、最後船を一艘作ってもらってその際のいろんな資料を保管されていました。
ただエンジニアの観点から言うと、保存するだけではもったいなく、その船を復元できる資料になって初めて価値が出ると判断し、再現性のあるデータベースを作成し始めました。その過程で船大工さんの動きそのものもデータ化する必要が出てきまして、ビデオ撮影による動作記録を開始しましたが、映像だけでは動きの細部が分かりにくいという課題に直面し、モーションキャプチャーシステムの導入を検討しました。
― なぜOptiTrackを選んだのでしょうか?
初めは簡易的なビデオ式モーションキャプチャシステムを導入しました。しかし、このシステムはデータの精度が悪く、手動でのマーカー設定に多大な労力がかかるという時間的な限界がありました。特に、細かく素早い手指の動きのデータ取得には不向きでした。
こうした従来のビデオ式や9軸ワイヤレスセンサーでの計測に限界を感じていた2013年、OptiTrackシステムを導入しました。
導入の決め手は、100fpsという高いフレームレート、USB接続による簡易なセッティング、そして研究室の予算に見合った費用でした。また、日本語での情報提供が充実しており、迅速かつ丁寧なサポートが受けられたことも重要な要因でした。
OptiTrackは最大1000FPSでのトラッキングが可能なモーションキャプチャーシステムです。また1mm以下の高精度でありながら、他の光学式と比較するとセッティングが用意でコストパフォーマンスにも優れています。
研究内容紹介
鉋削り職人の切削速度、足の軌道や上半身との相関等を解析
船大工の技能保存研究から派生し、特に重要な「鉋(かんな)削り」の動作分析を行いました。鉋削りは熟練者になると水を弾くほど綺麗な面になり、条件が良いと1000分の4mmの鉋屑が出ます。船大工ご本人による撮影は困難だったため、宮大工の上條勝様にご協力いただき、熟練者の技能を熊本大学で実演・記録しました。
光学式モーションキャプチャーシステム(OptiTrack)を使用し、熟練者1名と初心者3名が、37個の反射マーカーが付いたスーツを着用して鉋削り動作を行いました。
計測では、全身の動作、特に手の切削速度、足の着地点(軌道)、上半身と足の動きの相関、頭部の安定性などに着目して分析を行いました。
分析の結果、熟練者と初心者の動きの違いが、客観的な数値データとして出てきました。例えば熟練者は手の切削速度が常に安定し、足の着地点がほぼ一直線上に分布しているのに対し、初心者は速度変化が激しく、足の軌道も不均一ということがわかりました。
最も顕著な差は、『熟練者は足の動きと上半身の動きが独立している(相関が0)のに対し、初心者は足が止まると上半身が動くという「負の相関」』が見られた点です。
導入効果やメリット
低コストで高品質な計測が実現し、"暗黙知"の数値化に成功
―OptiTrackに対してどのようなメリットを感じましたか?
当初は簡易的なビデオ式のモーションキャプチャーシステムで記録していましたが、まあコスパが悪い。1日かけて30秒くらいの動画しか分析できませんでした。OptiTrackは200万円くらいの初期費用で非常にクオリティの高いモーションキャプチャーが簡単にできるようになって非常にありがたかったです。
また製品ラインナップが多い点も良いと思います。他の施設ではもっと大規模なカメラシステムでスポーツ動作の研究をされているところもありましたし、ただ私たちのように目的に合わせれば金額的な意味でも導入しやすいというのが良かったです。
ソフトウェアも割と頻繁に更新があるのもありがたいですね。あとVENUS 3Dという解析に特化したソフトウェアも導入しておりまして、部分的な動きや加速度の変化等は、マーカーを5つくらい貼るだけで録れます。そういったソフトとの連携ができるという点もあって、ハードウェアだけでなくソフトウェアの面でも導入して良かったなと感じております。
VENUS 3DはOptiTrackと連携できる解析ソフトウェアです。カスタマイズ性が高く、OptiTrackで得た各マーカーや剛体の三次元データを元にあらゆるデータを算出します。詳しくはお問い合わせください。
―キャプチャーをする上で工夫された点などあれば教えてください。
研究目的にフィットする方の協力を得られるかというのが重要であると思っていて、そのあたりに一番気を使いました。
モーションキャプチャーに関する論文を読むと、被験者が20歳前半の男性などがとても多いです。つまり研究室の学生がキャプチャーをしているんですね。今の時代一般の方を被験者にしてデータを撮るというのが難しいです。今回はご協力していただく必要がありましたので、当日スムーズに撮影がうまくいくよう、セッティング等事前の用意をきちんと行いました。
その他OptiTrackを用いた研究内容
創造工学研究室では、伝統技能の動作解析や日常生活動作の分析にモーションキャプチャーシステムを活用しています。
研究例①:ノミ打ちの技術解析
鉋削りと同様、伝統技能(造船技術)の継承が目的です。特に難しい「船のぎ合わせ」作業における「ラキ穴」(斜めの穴)を鑿(ノミ)で加工する動作を分析しました。
作業者の身体だけでなく、使用する道具(ノミとハンマー)にもマーカーを貼り付け、「剛体」として定義しました。これにより、作業者の身体動作と連動する道具の3次元的な姿勢、角度、軌道を精密に計測しました。
研究例②:日常生活動作の動作解析と学習効果の検討~箸使い・タイピングの研究~
日常生活における繊細な「手指動作」の技能研究も行っています。
箸動作の研究では持ち方の違いによる技術や動作の評価や矯正器具が持ち方に与える効果の検証を行いました。指の関節角度や指先間距離、特に人差し指と中指の第三関節の「位相差」に着目し、解析を行いました。
さらにはタイピング動作の研究ではホームポジションで打つ場合と我流で打つ場合の違いを測定し、指の総移動量などを計測しました。
それぞれ動作の解析だけでなく矯正した場合の学習効果まで検証しました。それぞれ意識して練習することで技能向上に効果が見られ、同時にモーションキャプチャーシステムを用いた手指動作の評価は有用であることが確認できました。
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